研究概要 |
爆縮気泡中での分子種の空間分離;流体力学的な計算機シミュレーションにより、爆縮気泡内の分子分布は、均一等方的ではないと言われている(Strey, 1999, J.Fluid.Mechanics : Strey&Szeri, 2002, PRL)。気泡の中心部には、分子量の小さな軽い分子が集まり、それを分子量の大きい重い分子が取り巻く。爆縮気泡内での化学反応を設計する上で、この理論の予測は極めて重要である。なぜなら、爆縮時の超音波エネルギーは気泡中心部に集中し、もしそこに、反応を期待する2種以上の分子が共存しないならば、爆縮誘起の気泡内化学反応は、成就しないと考えられるからである。以上の予測に鑑み、Strey予想(爆縮気泡内での分子種の空間分離)の実験的検証をおこなった。らく酸は、pKa=4.5、分子量88の有機酸である。水溶液中に溶けた酸分子は、酸性中では中性分子、アルカリ中ではイオンとなる。らく酸イオンを、気相中に移動させるには、中性分子よりも極めて困難である。従って、SBSL気泡中のらく酸分子種の濃度は、pKaよりも酸性中で増加する。溶液のpHを変えながら、SBSL気泡の発光スペクトルを測定したところ、酸性中で、強度が減少し、最大発光波長が長波長シフトする事が明らかになった。この実験事実は、らく酸が気泡内に存在すると、爆縮時の化学分解のため、気泡温度が上昇できない事を意味している。「らく酸を加えた水溶液中に、3種類の希ガス(He,Ar,Xe)の内1種類をシードして、溶液のpHを変えながら、SBSL発光を測定した。このとき、Xeガスの場合だけ発光強度とピークシフトの変化が顕著に現れ、He,Arでは、空気気泡で観測されたpH効果は、顕著に観測されなかった。この事は、He,Ar,Xeおよびらく酸の分子量が、それぞれ、4,40,131,88である事を考え合わせると、らく酸(88)より唯一重いXe(131)だけが、らく酸分子を爆縮気泡の中心に追い込む事ができ、このときに限り、らく酸分子の化学分解が進み、発光強度の低下とピークの赤方シフトが観測されるものと了解された。このように、Szery予想は、予備的な段階ながら、実験的に証明されたといえる。
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