研究分担者 |
西野 由希子 茨城大学, 人文学部, 助教授 (40262357)
志賀 市子 茨城キリスト教大学, 文学部, 助教授 (20295629)
日野 みどり 金城学院大学, 現代文化学部, 助教授 (00367632)
芹澤 知広 奈良大学, 社会学部, 助教授 (60299162)
帆刈 浩之 川村学園女子大学, 文学部, 助教授 (40284278)
西田 文信 麗澤大学, 外国語学部, 専任講師 (40364905)
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配分額 *注記 |
8,900千円 (直接経費: 8,900千円)
2006年度: 1,800千円 (直接経費: 1,800千円)
2005年度: 3,400千円 (直接経費: 3,400千円)
2004年度: 3,700千円 (直接経費: 3,700千円)
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研究概要 |
本研究では第二次世界大戦後の香港について、リテラシー(「読み・書き」行為およびそれに伴う社会活動・社会現象)の諸相を考察した。主要考察対象時期を1960-70年代に設定し,当該時期に進行した社会構造の変化とリテラシーとの関係に焦点を当て、人文科学と社会科学の各分野から考察を行った。 1960-70年代は香港が軽工業と国際貿易を基軸とする社会へ変容し,市民の生活水準と生活環境が向上し,制度教育が整備されようとしていた時代である。この社会構造の変化は,1.「読み・書き」能力と文字使用,2.「読み・書き」の対象と媒体,3.「読み・書き」を通して表れる思唯と思想(アイデンティティ,イデオロギーなど),にも変容を余儀なくさせていたことが分かった。例えば,1961年のセンサス報告書では,漢字の「読み・書き」能力を有する中華系市民による,音声言語「広東語」を共有する社会が形成されつつある姿が数値化されていたが,政庁の一部局たる民政署はその趨勢に敏速に対応し,市民との遣り取りに中文を積極的に使用する方針を打ち出していたことを明らかにした。この政府の書記言語面におけるシフトは,1960年代後半の「中文に公用語としての地位を求める運動」にとっては既成事実を,運動を受けての中文公用語化にとっては軟着陸の材料となったと考えられる。また,1970年代には「香港文学」という意識が「作家を育てる活動としての文学賞」を介して育まれる一方で,宗教面では「尊孔運動」が衰退していったことを明らかにした。「尊孔運動」の衰退は「社団活動」と「中文中学」の衰退とも連動したもので,教育言語のシフトが思唯や思想に大きく関わっていたことになる。 変容は請願者にとどまらない。盲人にとっての「読み・書き」の手段である点字すらも,当該時期に旧来のコードから新しいコードへの移行が起きている。そこには,制度教育と期を同じくして整備がなされつつあった特殊教育の姿が窺える。 当該時期は香港における社会言語学研究の草創期でもある。1960年代に欧米で始まった社会言語学が70年代に香港に伝わったものだが,社会構造の変化が社会言語学研究に(特に共時的な音声言語面で)好材料を提供していた可能性がある。本研究では「読み・書き」を扱い,書記言語や通時的視点を打ち出すことで,香港の社会言語学に対して新たな視点を提供できたと考えている。
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