研究概要 |
星間塵表面における化学反応は,H_2,H_2Oや星間有機分子等の生成・進化に不可欠である.本研究の目的は,分子雲の極低温領域で特に重要な星間塵原子表面反応を定量的に実験で調べ,さらに原子表面反応による星間分子の重水素濃集過程を解明することである.期間内に明らかにした主要な事柄を以下にまとめる. (1)固体COにD原子が逐次付加する反応を調べた.D原子の付加速度はH原子の1/10以下となり,付加反応によっては重水素濃集が起こり得ないことが分かった. (2)固体CH_3OHとD原子が反応し,HとDが置換される反応について.CH_3OHにD原子を照射した時の赤外線吸収スペクトルの変化を調べたところ,CH_3OHの減少にともない,D体(CH_3OH-d_n:CH_2DOH,CHD_2OH,CD_3OH)が生成することが分かった.一方,CH_3OH-d_nにH原子を照射しても全く変化は見られなかった.つまり,一度重水素化したCH_3OH-d_nは安定で,もとに戻らないことが分かった.これらの結果は表面におけるH-Dの置換が重水素濃集機構になりうることを示した初めての証拠で,これまで議論されたことのない新しい濃集機構である. (3)星間塵表面組成として考えられるCO,H_2CO,H_2O固体表面におけるCO分子への水素原子付加反応(生成物としてH_2CO,CH_3OHが得られる)の反応速度の違いを様々な温度で実験的に調べた.その結果,CO固体表面では15K付近,H_2O表面では20K付近で反応速度が急激に落ち,H_2CO表面では20Kにおいてもそれほど反応は遅くならなかった.これらの結果は水素原子の各表面に対する吸着係数の温度依存性を反映していると考えられ,20K付近ではCO,H_2O,H_2COの順で吸着係数が高くなることを示唆している.このことは星間塵上における化学進化を考える際は,単に反応する原子・分子だけではなく,反応場を形成する表面分子も重要になることを示している.
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