研究概要 |
「H16-18年度」前縁・前弧域の海盆と付加体の有機物濃集システムを明らかにするため,静岡県掛川地域前弧堆積盆地,基礎試錐「相良」カッティングス試料および典型的な付加体である室戸半島地域の四万十帯において,岩石・原油・バクテリア・微化石の分析を行った. 1.相良原油のうち女神背斜の北西翼部に産するものは,高熟成(Ro換算値で最大1.2%)を示す芳香族熟成度指標炭化水素に加え,新第三系倉真層群松葉層・戸綿層からの取り込みと考えられる低熟成度のステラン・ホパンおよびオレアナン等を含有している。一方,同背斜の南東翼部に産するものは,ステラン・ホパンの熟成度は高く,芳香族炭化水素との熟成度差が小さい。原油中の各熟成度指標については,C29ステランのコンタミネーションの影響が大きく,さらにメチルフェナントレン,トリメチルナフタレンおよびメチルナフタレンの順に影響が小さくなる。2.倉真層群松葉層において根源岩ポテンシャルが相対的に高くなり,海成有機物の多い珪質シルト岩(TOC=0.9%, S2=約2.8mgHC/gRock, HI=約350mgHC/gC)が掛川地域で確認されたが,基礎試錐「御前崎沖」では明瞭ではなかった。陸に近い北部地域ほど,基礎生産性の高い前期中新世の沿岸海洋環境を反映していたものと考えられる。このことは,「前弧海盆地で有機物が濃集することは稀であるが,火山活動による栄養塩の供給と深い堆積盆地が有機物を濃集させた」ことを示唆する.3.下部中新統以浅の熟成度および増温率は,掛川地域で高く海域側で低い。掛川地域においては倉真層群・三倉層群ともに熟成しているが,海域側において熟成しているのは三倉層群以深である。さらに,コンデンセートを生成できるほどの高い熟成度(Ro>1.2%以上)をもつ倉真層群は両地域ともに確認されず,三倉層群のみであった。4.堆積盆地一次元シミュレーションに基づけば,始新世以降で顕著な石油生成・排出が起こったのは,29Maおよび15Ma(三倉層群を根源岩として原油生成)と2Ma(三倉層群を根源岩として軽質油-コンデンセート生成,かつ倉真層群を根源岩として原油生成)である。5.バイオマーカーとシミュレーション結果を併せれば,相良原油の生成移動過程は次のように考えられる。すなわち,「約2Maに三倉層群から生成排出された軽質油-コンデンセートが,断層等を移動する途中で倉真層群起源炭化水素を取り込んで相良層群中にトラップされた。」6.石灰質ナンノ化石はSphenolithus heteromorphus, Hericosphaera ampliapertaなど8属13種が同定され,戸沢層,西郷層の中下部の堆積時期はCN3帯(18.2Ma〜15.6Ma)に限定された.7.HD-1株の近縁種は検出されず,微生物による石油合成はほとんど起こっていないことが示されたが,トルエンを栄養源とするトルエン資化性細菌が確認された。8.付加体では,白亜系の海洋無酸素事変に関連する層準で有機物濃度の増加が起こったが,陸源有機物を多く伴っていた。
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