研究課題
基盤研究(B)
太陽系形成初期の記録は、その時期に形成された始原隕石にしか残されていない。本研究では始原隕石中の証拠組織とその構成物質の同位体比から、原始太陽系星雲の散逸時期の推定を研究目的とする。原始太陽系星雲の散逸が太陽系形成の初期の段階に起こったことは申請者のグループの始原隕石の先行研究で初めて明らかにされた。しかし、いつ散逸したか(年代)はわかっていない。本研究ではこの散逸の時期を始原阻石の証拠から絞り込む。星雲散逸後は太陽からの放射線が初めて原始惑星や微小天体に降り注ぎ、太陽風成分が天体表面に打ち込まれる。本研究では始原隕石の同位体比から、太陽風がいつから打ち込まれ始めたのか、つまり、いつ星雲が散逸し太陽系が晴れ上がったのか、その年代を推定する。太陽系の始原天体を構成するCV3タイプ炭素質隕石の詳細研究を行った。このタイプの隕石には、天体内部の水質変質により形成されたファイヤライト脈が存在する。ヴィガラノ隕石中のファイヤライトに対し二次イオン質量分析計を用い局所分析し、放射起源の^<53>Crを検出し、Mn-Cr年代決定法に従い形成年代を決定したところ、45.61±0.03億年であった。この年代は、他のCV3コンドライトのファイヤライト形成年代と一致するため、この時期にCV3天体内部で大規模な水質変質が起ったことを示している。このファイヤライト脈が含まれる試料の近傍から採取した試料に対し、レーザーによる希ガス局所分析を行った。分析の結果、ヴィガラノ炭素質隕石には太陽風希ガスが存在していることがわかった。この太陽風成分は、ファイヤライト形成以前に天体表層に打ち込まれた可能性が高い。したがって、45.61±0.03億年前には原始太陽系星雲が散逸していた可能性を示す。今後は、ファイヤライト脈を含む領域の詳細な希ガス同位体分析を行うことにより、上記の結論を確実なものにしていくことを計画している。
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