研究課題
基盤研究(B)
フォトクロミック反応は、光照射により分子内の化学結合の変化が起こる異性化反応であり、結合様式の変化に伴い吸収スペクトルや多くの物性が変化する。我々は逐次的な多光子吸収によって高位電子励起状態に励起された場合に、最低励起状態では非常に小さい反応収率しか持たないフォトクロミック分子系(ジアリールエテン類やフルギド系)が、非常に効率よく(50%から100%、あるいは定常光照射の数十倍から約千倍)異性化反応を行う結果を見出した。本研究ではこのような多光子励起による反応のダイナミックスを(1)ピコ秒、フェムト秒分光によって詳細に測定し、(2)励起光強度、波長、パルス幅(フェムト、ピコ、ナノ秒)と反応収率の関係、反応を司る電子状態の性質を明らかにすることを目的とし、以下の結果を得た。1.一光子短波長励起と二光子励起による反応性の違い:ジアリールエテン誘導体では、可視二光子励起の場合には効率の良い開環反応が促進されるが、一方、同程度のエネルギーを持つ紫外一光子励起では、高位励起状態からの開環反応は促進されない。この違いについて、分子の対称性の低いフルギド誘導体の反応ダイナミクスをナノ、ピコ、フェムト秒レーザー測定によって実験的知見に基づき比較検討した結果、波動関数の対称性を基本とした光学遷移の禁制、許容により上記のような反応性の違いが現れていることが明らかになった。2.分子振動の位相を制御した多光子反応ダイナミックス:フェムト秒パルスにより励起分子のコヒーレント振動の位相を選択した二光子吸収過程の観測のための光学系を新たに光学部品を購入して構築し測定を行った。その結果、分子の振動の位相に同期した多光子開環反応の収率の変調を確認できた。また、数種の系に対して測定を行った結果、コヒーレントな大振幅振動と分子構造に対する実験的な知見を得た。平成16年度のピコ秒パルスレーザーを用いた多光子反応のインコヒーレント制御、及び2段階励起によるピコ秒多光子反応ダイナミックスの結果を含め、レーザー多光子フォトクロミック反応制御に関する基礎的な知見を得た。
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