研究概要 |
細胞間のカリウムイオン(K^+)の検出は生体内情報伝達の解明に重要である.これまでは大量のナトリウムイオン(Na^+)共存下の微量なK^+の蛍光センシングが不可能であったため,この分野の研究は遅れている. 本研究では,過剰(mM)のNa^+共存下で微量(μM)のK^+を蛍光センシング出来る試薬を開発することを目的とする.更に,神経細胞間のK^+濃度を蛍光イメージング出来るシステムを確立する.これによって,カルシウムイオンと同様にK^+の生体内での重要性を示すと同時に,この分野の研究を活性化させることを目的とする.その手法としては,テロメアDNA配列と蛍光エネルギー移動(FRET)を利用する.K^+は,テロメアDNA配列の四本鎖DNA構造を安定化する.従って,テロメアDNAの両末端にFRET可能な2つの蛍光色素をそれぞれ連結させると,その構造変化に応じたFRET変化が得られるものと期待される.本研究では,この原理に基づいた高性能カリウムイオン蛍光検出試薬PSO(カリウムセンシングオリゴヌクレオチド)の開発を行った. 研究成果は以下のとおりである.1)これまでヒトテロメア配列の両末端にFAMとTAMRAを導入したPSO-1を調整し,その識別能と蛍光特性について評価した.その結果,K^+に対する高い特異性と効果的なFRETが得られた。PSO-1の性能を向上させるために,新たなホスト分子としてK^+に対して特異的に分子内四本鎖を形成することが既に知られているトロンビンアプタマー配列(TBA)の5'-と3'-末端にFAMとTAMRAを導入したPSO-2を合成した。CDスペクトルの検討からK^+添加に伴ってPSO-2のCDスペクトルが大きく変化した.この変化を利用することにより、PSO-2はK^+と1:1で複合体を形成することを明らかにできた.2)TBAのアプタマーの両末端に色素pyreneを導入したPSO-pyを設計,その性能評価を行った.この結果,四本鎖を形成するオリゴヌクレオチドを用いて新型のK^+蛍光プローブを提案することができ,これを基に生体内へ応用可能なK^+蛍光プローブの開発に成功した.
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