研究概要 |
本研究の目的は,動力伝達用歯車の発熱をいかに冷却すればよいかを,かみ合いはずれにおける冷却剤としての潤滑油供給法の観点から調査すべく,かみ合いはずれ部の媒質の運動を把握しようとするものである. 当初は試験歯車対を空気中で運転し,スモークワイヤ法を用いて空気流の空気流の可視化に成功したが,しかし,かみ合い部が死角となって観測が困難であることや高回転域時にはトレーサの拡散消失が早いことなどから,新たな実験手法を開発した.開発した実験装置は,透明アクリル樹脂製はすば歯車を水中で運転し,トレーサ粒子として水と比重が類似のポリスチレン粒子(直径約0.1mm)を用い,通常の歯車では観察することのできない,かみ合っている領域の空隙を歯車の内部(中心)から可視化できる.かみ合い終了時に周囲の媒質を吸い込む挙動の観察に成功した.観察結果は,歯面を通じてその裏側から見える範囲に限られ,その奥行き方向(半径方向)の位置を含めた3次元的な把握は困難であった. そこで次に,歯すじ方向からも観察をしてスモークワイヤ法も含めた従来の観察結果を検証すると同時に,その3次元的な挙動を把握すべく,すなわち歯溝の隙間の中でトレーサ粒子が隙間の厚み方向でどの位置にあるかを観察することに主眼をおいて実験を行った.まず,観察されるトレーサ粒子の奥行き(光軸)方向の位置を把握するための手法として,水槽壁を構成する透明アクリルが非点収差を生ずることを見いだし,これを利用して,焦点はずれの像のぼけから粒子の焦点合致位置からの前後のずれを把握して流れの3次元的挙動を把握できる手法を開発した.その結果,歯溝内部において,媒質が隙間を構成する駆動側の歯と被動側の歯に沿って流れたり,歯すじ方向には運動するものの,軸直角面内では滞留していたりするなどの挙動を明らかにすることができた. また,かみ合いはずれからの的確な給油法の検討を念頭に,この位置に置いた障害物による流れの変化を把握し,その変化が少ないことを見いだした.これにより,今後の潤滑油供給のための指針作りへの基礎を築くことができた.
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