研究概要 |
近年人工換気法としての臨床有効性が高く評価されている高頻度振動換気法(HFOV)について,その換気機構を解明するため,特に肺組織末梢部の呼吸細気管支におけるマイクロスケール呼吸振動流構造の詳細を実験的に解析することを目的とした.HFOVにおける換気は,通常呼吸の数十倍の換気周波数となることから,通常呼吸時の気道から肺の末端組織にいたる換気メカニズムにおける流れの作用とは異なり,気道部のストリーミング,乱流混合作用,時定数効果などが生じる複雑な振動流構造となる.これらが,呼吸換気作用の促進にどのように寄与しているかを解明することは,HFOVの臨床応用における最適化を図る上で重要となる.本研究では,呼吸細気管支マイクロチャンネルモデルを用いて,高周波数換気時の振動気流解析を行い,以下のような成果を得た. (1)終末気管支および分岐肺胞管についての実寸法モデルの作成とモデル内振動流解析 終末気管支から肺胞管にいたる実寸法分岐管マイクロチャネルモデルを作成し,臨床用高頻度振動換気装置を用いてモデル内の呼吸換気振動流を実現し,マイクロスコープPIVシステムを用いてマイクロスケール振動流速場の定量的実験解析を行った.その結果,多分岐管モデルにおける分流・合流の時系列的計測により,その速度分布発達経過を明らかにした. (2)末端組織のコンプライアンス差による呼吸細気管支分岐部流れの解析 HFOV適用時の換気機構の重要な要素として,肺末端組織における細気管支分岐端のコンプライアンスの相違や肺胞管狭窄などの影響による時定数の差違により生じるとされてきた振子気流(非同期流)について,マイクロスケール呼吸細気管支モデルを用いた時系列振動気流計測により,振子流の存在を初めて定量的に確認した. (3)その他 (a)数値解析モデルについて検討し,肺胞の計算幾何モデルおよび物質拡散モデルの検討,適用すべき境界条件を検討し,今後の研究に対する知見を得た. (b)高頻度振動換気による振動流の周波数増加により顕在化する境界層の非定常性の影響について,水を用いた相似実験を試み,ガス交換への影響を検討した.
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