研究概要 |
本研究は地震時に溶接鋼構造部材で問題となる低サイクル疲労破壊に対する設計手法を確立するために,溶接継手部の低サイクル疲労強度予測手法を開発することを目的として,画像計測技術を用いた疲労試験システムを独自に構築し,それにより鋼材の低サイクル疲労強度予測手法について検討したものである.主な成果は以下の通りである. ・開発した試験システムにより鋼素材,溶接部に対する一定振幅ひずみ試験を行い,一定振幅ひずみ下の疲労強度を実験的に明らかにした.それによると,溶接金属部,熱影響部(HAZ)の低サイクル疲労強度は鋼素材のそれを大きく下回っていること,特にHAZに関しては,溶接金属部よりさらに減少しており,そのき裂発生寿命は鋼素材の約30%であることが示された. ・試験体に変動振幅ひずみを導入し,その際の疲労強度を解明した,変動ひずみの大きさや順序が疲労強度に与える影響を検討した上で,変動振幅ひずみ下での鋼素材,溶接金属部,HAZに対する低サイクル疲労強度予測手法を提案し,その精度を確認した. ・構築した材料レベルの疲労強度予測手法を継手レベルのそれに展開するために,実橋に用いられている溶接継手の低サイクル疲労試験を実施した.溶接継手においてき裂の発生が考えられる溶接止端部のひずみを実測することは困難であるため,弾塑性有限要素解析によりき裂発生点の局部ひずみを推定した.解析により推定した局部ひずみを基準とした溶接継手の疲労強度評価手法の有効性について検討した結果,解析による局部ひずみと提案した疲労強度曲線を照らし合わせることで,溶接継手の疲労強度を評価できることを明らかにした. ・溶接継手の低サイクル疲労強度の向上手法として,溶接止端部におけるTIG処理に着目し,その補強効果について検討を加え,低サイクル疲労領域においてもTIG処理は効果的であることを明らかにした.
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