研究概要 |
インフラ整備について,厳しい財政状況を背景として新規投資が今後はより一層量的に制約されることは明らかであり,一方で安心・安全が社会的な要請として強まるにつれて環境配慮や防災性能といった面での質的な向上が求められている.このような背景のもとに,土木構造物の設計手法もより経済性を重視し,かつ,設計の自由度を広げたより柔軟な手法を認める方向へと移りつつある.しかしながら,誤解を恐れずに言えば,従来の土木設計において,経済性の観点からその手法を体系的に捉えた試みは乏しいと言える.また,他の工学分野における設計論と比較しても,土木設計の体系は設計を意思決定のプロセスとして見た場合,必ずしも十分に体系化されているとは限らない.また,土木設計の手法が変革の時期にさしかかっているにも関わらず,設計に関する制度についての根本的な議論がその変革に対応しているものとはなっていない.土木設計は単に工学内部の問題ではなく,それを社会的に認証されたものとして位置づける制度と一体的に本来は考えるべきものである. 本課題はこの問題意識のもとに,従来の土木設計の考え方を整理した上で,経済計算の視点から新たに体系化の方向を探り,それについてまとめたものである.特に,インフラの機能を決定/評価する計画とそれを受けて進められる設計の関係,インフラ管理運営までも含むライフサイクル全体と設計との関係,経済計算の一つの体系としての会計との連動,設計に関する制度の問題等から土木設計のあり方について議論している. 各論としてそれらの課題について取り組み,主に以下の成果を挙げた. (1)機械工学等の他の工学分野での設計論と対比し,かつ,会計制度の枠組みでの土木設計の特徴を体系的に整理した. (2)設計変数として従来は経済性と連動していなかった設計寿命について経済的に最適な設計法を提案した. (3)設計の発注制度を制度設計問題としてモデル化した. (4)民間/公共の主体の相違が設計問題に及ぼす影響を整理した. (5)複合的機能を有する土木施設の設計問題をモデル化してその特徴を明らかにした.
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