研究概要 |
「低次元・異方構造」を持つ酸化物材料は、環境負荷が小さく、原料が安価で、高温大気中でも安定であることから合金系材料に変わる熱電材料として期待されている。本研究では、導電層と絶縁層が交互に積み重なった自然超格子構造を有する強相関電子系酸化物を母材としたRE_<2-x>M_xCuO_4(RE214系:REMCO)材料に着眼した。また、薄膜化技術を用い、エピタキシャル成長させ、RE^<3+>の一部をM^<4+>(M^<4+>=Ce^<4+>)、M^<2+>(Ca^<2+>,Sr^<2+>,Ba^<2+>)で置換して電子・ホールドーピングすることによりキャリア制御をしたn型Sm_<2-x>Ce_xCuO_4(SCCO),P型La_<2-x>M_xCuO_4(LMCO)酸化物熱電薄膜の作製を行い、RE214系における熱電材料としての可能性を検討した。さらに、異なるRE元素を用いた混晶系RE_<2-x>Ce_xCuO_4(RE=Gd,Sm,Pr)薄膜を作製し、Ce置換量に対する熱電特性の変化について検討した。 作製条件の最適化を図ることにより、c軸配向したp型、n型RE214薄膜を得た。n型SCCO薄膜のゼーベック係数(S)と抵抗率(ρ)の関係から、電子ドーピング元素が増えると抵抗率が一様に減少することを確認した。熱電変換材料の熱電性能の一種であるPower Factor : PF(出力因子)の温度依存性の結果から、REMCO薄膜は室温領域において10^<-3>W/mk^2程度の優れた熱電特性を示し、実用化材料BiTe系に匹敵することがわかった。また、n,p型薄膜が各置換量に対して同じPFの値を示すことがわかった。また、その最も高いPFは無配向焼結体Nd_<2-x>Ce_xCuO_4のPFより約10倍程度高かった。 混晶系RE_<2-x>Ce_xCuO_4(RE=Gd,Sm,Pr)薄膜においては、RE元素のイオン半径が大きくなるほどキャリア濃度が大きくなるという結果が得られ、(1)RE元素のイオン半径に依存する(2)RE元素が異なることでCe置換量に対するキャリア濃度増加量も異なることが確認された。これはRE元素によって頂点酸素量、Ce置換に対する頂点酸素の抜けやすさが変化するためと考えられる。さらに、イオン半径の大きなRE元素を用いた薄膜ほどキャリア移動度が大きくなり、電気抵抗率が小さくなる可能性が示唆された。 今後、熱伝導率の低下を目的としたナノサイズの欠陥導入技術の構築とともに、母相のRE214材料のキャリア濃度の最適化を行うため、頂点酸素量の制御やイオン半径の大きなRE214薄膜作製技術の構築が必要と考えられる。
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