研究概要 |
これまで様々な植物を用いた研究から植物がシンクリミット状態になる場合には主要なソース器官である葉に光合成産物が蓄積し光合成速度が低下することを明らかにした。一方,サツマイモを用いた研究からはシンクリミット状態における光合成速度の低下がルビスコへの活性阻害物質の結合によって引き起こされることが示された。本研究の目的はシンクリミット状態におけるルビスコ活性阻害物質が何であるかを明らかにし,その物質のシンクリミット状態における機能の普遍性とルビスコからの解離過程を明らかにすることである。加えて,その活性阻害物質がシンクリミット状態における主要な光合成速度低下の原因であるかどうかを検討することである。 1.サツマイモのシンクリミット状態におけるルビスコ活性阻害物質の分離同定の研究:初年度はサツマイモ植物個体をシンクリミット状態にするためスチームガードリング処理を行い,光合成産物が多量に蓄積し光合成速度の低下した葉を得,この葉の抽出液からホウレンソウのルビスコに結合しHPLCで単一ピークを示すルビスコ活性を抑制する物質分画を得た。しかし,この分画には,NMRやガスマス測定により,多量の多糖が混入することが判明した。次年度(最終年度)は限外ろ過などでこの多糖の除去を試みたが,よい結果が得られなかった。一方,葉抽出液の阻害物質濃度を高め純度の高い阻害物質を得るために,多くのサツマイモ個体に比較的長期間のガードリング処理を行ったが,葉のルビスコタンパク量が大きく低下するなど葉に老化現象が認められ,適する葉サンプルを得ることができなかった。 2.ダイズにおけるルビスコ活性阻害物質の同定,普遍性,阻害物質の解離,光合成速度低下への寄与:初年度はダイズ植物個体を用いてこれに二つの異なるシンクリミット状態を課すことによって光合成速度制御の機構を調べた。その結果,これら二つのシンクリミット状態における光合成速度低下には,いずれも不活性化型ルビスコへの既知の糖リン酸の結合が関わることが示された。次年度(最終年度)はダイズ植物個体にもう一つ別のシンクリミット状態を課し光合成速度制御の機構を調べた。その結果,このシンクリミット状態における光合成速度低下にも既知の糖リン酸のルビスコへの結合が関わることが示された。さらに用いたダイズ植物個体のソースシンク比と光合成速度および既知糖リン酸のルビスコへの結合量の間に関係性が認められ,シンクリミット状態・解除状態の程度による既知糖リン酸のルビスコへの結合解離を介した光合成ソース・シンク制御機構の存在が示唆された。
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