研究課題
基盤研究(B)
琉球列島は九州から台湾にかけての島嶼群で、140以上もの島から形成される。琉球列島には数多くの固有動植物が生息し、日本で最も生物種多様性の高い地域となっている。これは、琉球列島の複雑な地史(大陸との陸橋形成に伴う祖先種の移住や海水面の変動による島の分離、融合等)によって固有種形成が促進されたためであると考えられている。琉球列島に生息する陸上動物の分子系統地理学的研究は主に脊椎動物で行われて来た。本研究では、無脊椎動物、特に分散能力が低いと考えられる陸産貝類を中心とする多様な分類群において分子系統地理学的解析を行い、固有動物相の形成過程の構築を試みると共に、各グループの分類学的再検討を行った。その結果、系統分岐のパターンが海峡形成などの地史的イベントに対応すると思われる分類群はむしろ少なく、遺存固有と考えられる分類群が予想以上に多いことが判明した。地域集団間の系統関係は分類群によって大きく異なり、分散や種分化の過程は分類群ごとに異なることが示唆された。また移動能力が低いと考えられてきた陸産貝類においても海上分散が認められ、複数の分類群において人為的な移入が確認された。琉球列島産の固有種の系統分岐は必ずしも生息地の分断の歴史に対応していないため、海峡形成などの地史的年代を分子進化速度の補正に用いる際は慎重に検討することが必要である。また、今回の分子系統解析により多数の隠蔽種が発見され、これまで広域に分布する単一種と思われていたものが実際には種複合体であったことが複数の科において判明した。これら隠蔽種の多くは内部形態で識別できたが、一部の隠蔽種は形態学的には全く識別できなかった。これらの隠蔽種には遺存固有と考えられるものが多く、分布域が著しく限定されているものもあり、早急な保全対策が必要である。
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