研究概要 |
神吉盆地堆積物の花粉分析の結果,過去約50万年間の氷期・間氷期変動に対して,神吉盆地周辺においては氷期(MIS 4,6,8,10,12)にはマツ科針葉樹が優勢となり,間氷期(MIS 5,7,9,11)にはブナ,コナラ亜属を中心とした落葉広葉樹とスギ,コウヤマキ,ヒノキ科の温帯性針葉樹が優勢となり,さらに各間氷期の最温暖期にはアカガシ亜属の樹木の生育が認められた。しかし,各氷期によってマツ科針葉樹の中での優勢な分類群が異なっていた。また,間氷期の最温暖期におけるアカガシ亜属の樹木の拡大も時期によって異なり,特にMIS 7および9の間氷期においては,その拡大が制限されていた。さらに,最終間氷期までについて,神吉盆地と琵琶湖高島沖物,日本海側の黒田低地(Takahara & Kitagawa 2000)の各堆積物の花粉分析結果の比較を行なった。最終間氷期(MIS-5e)前半にはブナを中心とした落葉広葉樹林が,後半にはスギが優勢な植生の中でアカガシ亜属花粉の出現がみられたが,完新世と比較するとその出現率は少なかった。また,MIS 5の時期における落葉広葉樹とスギ,ヒノキ科の樹木の増減の繰り返しやアカガシ亜属の拡大・縮小が,日射量変動曲線に対応することを示し,日射量の季節変化に起因する東アジアモンスーンの変動や気温の季節間での較差がこのような植生変遷の要因である可能性を指摘した(Hayashi et al., 2009, 2010)。MIS 4には気候の寒冷化に伴って,ツガ属,トウヒ属,マツ属単維管束亜属等からなるマツ科針葉樹林が拡大した。MIS 3には,コナラ亜属,ブナ等の落葉広葉樹林の拡大,遅れてスギやヒノキ科等の温帯性針葉樹の増加がみられた。この時期の温帯性針葉樹林の組成は近畿地方内でも地域差が認められ,日本海側ではスギが,内陸部地域ではヒノキ科が優勢であった。
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