研究概要 |
熱帯地方のアマモ場とマングローブ域が稚魚の成育場になっているかどうかを明らかにするため,沖縄県石垣島の吹通川周辺において,2004年から2006年にかけて,魚類の潜水観察と採集を行った。 吹通川の河口にあるマングローブ域,およびその沖合にある,アマモ場,砂地,礫地,枝状サンゴ域,テーブル状サンゴ域に1m×20mのベルトトランセクトを各々5箇所設置し,各トランセクト内に出現した各魚種の個体数と,各個体の体長を記録した。その結果,6つの生息域において,合計319種の魚類が観察された。この中で,稚魚(小型個体)がアマモ場,あるいはマングローブ域のみに出現し,成魚(大型個体)がこれら以外の生息場にみられた種は,それぞれ4種(イソフエフキ,ヒメフエダイ,オオスジヒメジ,タテシマフエフキ)と3種(オキフエダイ,ニセクロホシフエダイ,イッテンプエダイ)であった。したがって,これらの7種はアマモ場,あるいはマングローブ域を稚魚の成育場として利用している可能性が高いことが示唆された。 次に,マングローブ域を稚魚の成育場としている可能性が強いオキフエダイについて,成長に伴ってマングローブ域から他の生息場(枝状・テーブル状サンゴ域)に移動するかどうかを,筋肉の安定同位体解析を用いて明らかにした。 マングローブ域で採集したオキフエダイの稚魚(標準体長42〜125mm)の炭素安定同位体比(δ^<13>C)は-23〜-17‰であった。一方,サンゴ域で採集した個体は体長によってδ^<13>Cが異なった。体長180mm以上の大型個体では,-16〜-11‰とマングローブ域のものと有意に異なったが,体長86〜149mmの中型個体ではマングローブ域のものと同じであった。したがって,これらの中型個体は,以前,マングローブ域に生息していた小型個体がサンゴ域に移動して,そこで成長したものであることが明らかとなった。
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