研究概要 |
島根県東部の水田流域や山地流域などを研究対象にして,生物生息環境,水文環境,水質環境,土壌環境などの観点から農山村の環境要素を調査し,GIS解析に用いる環境要素の定量化と,環境解析やモニタリングのためのいくつかの新しい方法の開発を行った。そして,これらの環境要素をGISの手法を応用して統合化することを試みた。特に生物生息環境については,夏季の農業排水路に生息する水生動物の多様性(魚類・水生昆虫類)と,これに影響を与えると考えられる環境因子との関係を考察し,ほ場整備の完了した水田地区において,魚類,水生昆虫類,水質,水路の物理的環境(水深・流速・水路の護岸部・植生被覆率・水面下の土壌占有率・水路幅)に関する調査を行った。その結果,調査対象地点では,魚類に関しては11種,水生昆虫類に関しては14種の生息が確認され,また,それぞれの調査地点において,魚類,水生昆虫類に区分してShannon-Wienerの多様性指数を算出し,水質および物理的環境との間の関係を明らかにした。そして水生昆虫類に関しては,いくつかの水質指標や,植生被覆率,水面下の土壌占有率,水路幅が重要な環境因子であるとの結果が得られた。一方,循環灌漑を行っている水田流域における水質汚濁物質の物質収支の結果より,年間の汚濁負荷特性の変化には水文条件が主に寄与しており,また,水質浄化機能には,水理学的滞留時間の影響が大きいことなどを明らかにした。このような結果と流域における水循環,物質循環,土壌環境などの研究結果も加えて,農山村の環境要素を評価した。そして,これらの環境情報をGISの手法を応用して統合化し,水田地域における生物生息環境保全のための水土環境診断システムに十分な説得力をもたせるために,主要な環境要素を定量評価し,相互関係について考察した。
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