研究概要 |
環境温度より1℃ほど高い体温で冬眠する小動物は、冬眠からの覚醒時には30℃以上もの体温上昇を示す。その基礎となるエネルギー代謝の急上昇により脳など主要臓器が強度の酸化ストレスに曝されると推定される。冬眠中には新規の遺伝子発現やタンパク質合成は無く、覚醒開始に伴い新規合成が活発化し、エネルギー需要が増す(Jpn.J.Physiol.,2004)。覚醒が始まると一過性に後半身の血流が前半に移動し、脳への血流が急増、脳が強度の酸化ストレスに曝される事が示唆された(Am.J.Physiol.,2005)。さらに、脳内エネルギー代謝関連物質を行動の時間経過に沿って定量するため、ハムスター脳用の微量透析法を確立し体温非依存性の微量試料採取・定量システムを構築した(Behav.Brain.Res.,2006)。脳内留置した透析プローブを流速3〜4μL/hrで灌流することで、冬眠行動を阻害することなく細胞外液中の水溶性抗酸化物質の平衡的採取が可能となった。HPLC法による定量結果から、脳細胞外液中では、アスコルビン酸は冬眠中レベルが高く、覚醒に伴い減少する。グルタチオンはその変化と鏡像的に変化する。さらに尿酸は冬眠から覚醒中に一過性に増加する以外はほぼ同じレベルにある事を明らかにした。さらに、冬眠中と覚醒開始以降各時期に脳組織を採取し、各物質の組織のレベルを定量した。その結果、脳部位により含有量が異なるが、アスコルビン酸とグルタチオンは冬眠中も覚醒中と同レベルに維持されていた。尿酸は冬眠中レベルが低く、覚醒に伴って増加することを明らかにした。
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