研究概要 |
本研究課題ではヒトの全前脳症(左右の大脳半球の不分離)、Dandy-Walker奇形(小脳形成不全)、ヘテロタキシー(左右軸に沿った内蔵の形態形成異常)の原因遺伝子Zicファミリーについて、(1)蛋白質問相互作用を持つ新規分子の探索、(2)蛋白質問相互作用を持つ蛋白質との蛋白質結合の調節機構ならびにその意義の検討、(3)Zic蛋白質の分子修飾の実態の解明、(4)Zic蛋白質の機能に関わる細胞内シグナルカスケードの同定、の諸点について研究を推し進め、その結果、以下の成果をあげることができた。(1)Zic2を含む分子複合体を精製し、その構成要素を明らかにした(Ishiguro et a1.,2007)。酵母2ハイブリッド法により、同定したZic結合タンパク質I-mfaついて、この因子がZicタンパク質の細胞内局在を調節する可能性を示した(Mizugishietal.,2004)。そのほかに見いだされた新たなZic結合蛋白質についても、生物学的意義の追求がモデル動物の作製により、続けられている(Ogawa et al.,in preparation ; Tohmonda et al.,in preparation)。(2,3)Zic2と共に分子複合体を形成する分子群は二種類存在し、片方の複合体はタンパク質リン酸化酵素を含み、この酵素がZic2の特定のアミノ酸残基をリン酸化すること、このリン酸化により、新たな酵素がZic2に結合できるようになること、これら複合体の構成因子の変化がZic2による転写制御に関わることを示した。(3)その他に質量分析により、新たなリン酸化部位が同定され、これらのタンパク質修飾の持つ生物学的意義を明らかにする試みが続けられている(Hatayama et al.,in preparation)。(4)細胞内シグナルカスケードとの接点の解明を念頭においたZic変異マウスの表現型解析は、Zic1/Zic3,Zic2/Zic3複合変異マウスを対象として進められ、Zic1,Zic3が前脳の神経前駆細胞の増殖を促進する上で不可欠の役割を持つこと、Zic2,Zic3が体節形成において重要な役割を果たすことを明らかにした(Inoue et al.,2007a;2007b)。特に前者の解析においては前脳正中部の形態形成シグナルとして重要なWntシグナルとの接点を解明できた。一方、ツメガエルZicについて新たなメンバーの同定、解析が行われ(:Fujimi et a1.,2006)、マウスパラログ間での分子機能比較(Ishiguro et al.,2004)とともにパラログ間での分子機能・生物学的役割の違いについても解析が進展した。
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