研究概要 |
本研究では,LPAの血管生物学における意義をさらに深め,それと表裏一体の形でその測定の臨床検査医学的応用を目指し,以下の成果をおさめることができた. 1.血小板・血管内皮細胞におけるLPA受容体の情報伝達機構の解明 2.血漿LPA,LPC濃度測定方法の確立とその臨床検査への応用 最近,リゾホスフォリパーゼDとしてのオートタキシン(autotaxin ; ATX)が同定され,この酵素による基質LPCからLPAへの変換が,血中LPAレベルを規定する最も重要な因子であることが明らかになった.我々は,血漿LPAを酵素サイクリング法により自動測定する系を立ち上げ,抗血小板カクテル(CTAD)の使用,厳密な冷蔵操作等を行うことにより,LPA測定のための最適血漿採取条件を確立した.その方法に従い,血漿LPAの基準値を決定した.また,lysoPLD測定により,生体におけるLPAレベルを解析することが可能と考えられ,臨床検査項目としてのLPAの有用性が示唆された. 3.血中におけるLPAの代謝 血中LPAは,非常にダイナミックな代謝変換を受けていることが明らかになった.血中においては,lysoPLD/ATXによる産生,LPPによる分解で,LPAレベルのバランスが保たれていると想定された.また,LPAが惹起する細胞応答は,標的細胞上のLPAxとLPPのバランスで決まることが想定された. 4.種々の細胞上のATX, LPA受容体発現の解析 血液細胞におけるATX並びにLPAx発現を,RT-PCR(mRNA)とフローサイトメーター(蛋白質)を用いた解析した.各種血球系さらにはその分化段階で,これらの発現が大きく変化することが確認され,今後の研究の進展が待たれる. 5.慢性肝疾患患者におけるLPA濃度とlysoPLD活性の解析 慢性肝疾患患者では,血漿LPA濃度ならびに血清lysoPLD活性が健常者に比して有意に上昇しており,この両者の相関は良好であった.さらにlysoPLD活性はヒアルロン酸濃度と相関し,血小板数とは逆相関を示した.lysoPLD/ATXは慢性肝疾患の進行を反映するマーカーになる可能性が想定されるとともに,その病因への関与も想定された.
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