研究概要 |
本研究の目的は,珪酸化合物曝露が呼吸器障害(珪肺症)のみならず,アジュバンド病として自己免疫異常を呈することが従来より知られているおり,珪肺症例の検討により免疫担当細胞のアポトーシスに重要な役割を担うFas受容体分子とその選択的splicingにより生ずる可溶性Fasなどの異常が生じていることを明らかにしてきたことを踏まえて,in vitro実験系を用い,珪酸化合物やアスベスト,ひいては化学物質過敏症等の原因と考えられる有機溶剤やガス,もしくは内分泌撹乱物質等の免疫細胞への影響を分子レベルで検討することを目的とした。 第一年度には珪酸塩であるクリソタイルBによって誘導されるアポトーシスに対して抵抗性を示すHTLV-1不死化ヒト多クローン性T細胞MT-2の亜株の樹立に成功した。その後第二年度には,その抵抗性獲得における種々の遺伝子/分子の役割,あるいはサイトカインの役割を検討する目的で,親株と抵抗性株の比較を以下の項目で行った。 1.サイトカイン産生 2.アポトーシス関連遺伝子の発現 3.サイトカイン関連シグナル伝達経路の変化 4.TcRVβ発現 5.総括的な遺伝子発現(マイクロアレイ) これらのうち,1)では,IL-10の重要性,2)では,Bcl-2とBaxの変化,3)では,アスベストとの接触におけるScr family, IL-10下流のSTAT3の重要性が判明した。4)では,アスベストのスーパー抗原作用が如実に明示され,5)でも免疫に関連するいくつかの興味深い遺伝子が抽出された。今後は,これらの実験的な成果を症例に応用することにより,将来的なアスベスト発癌の分子予防標的の探索に,免疫学的知見を応用することを考慮していきたい。
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