研究概要 |
[背景]Gefitinib(イレッサ)は上皮増殖因子受容体(EGFR)のチロシンキナーゼ活性を阻害する薬剤であり,一部の肺癌において著効を示すことがある一方,重篤な間質性肺炎の原因となることが知られている。最近,肺癌細胞におけるEGFR遺伝子異常の存在とGefitinibに対する感受性がほぼ完全に一致することが報告された. [方法]患者から採取する喀痰,気管支洗浄液など,肺癌診断に使用する臨床検体は癌細胞以外に多量の正常細胞を含み,またEGFR遺伝子は10種類以上の異なった異常形式を取る.これらの点より,臨床検体中を用いてEGFR遺伝子異常を有する癌細胞を検索することは,通常の遺伝子異常の検索と比較して遥かに難易度が高い. [結果]我々は本研究において,PNA-LNA PCR clamp法を開発し正常細胞100に対して癌細胞が1存在するだけでも検出できる感度で,これまで報告された11の異なるEGFR突然変異を検出することを可能とした。日本人から確立された30種類の細胞株を検索したところ、9細胞株が変異を有していた。患者から喀痰,気管支洗浄液、胸水などを用い,56例(腺癌40例、扁平上皮癌10例、腺扁平上皮癌1例,大細胞癌1例、末分化癌4例)からの検体(生組織1例、胸水16例、穿刺細胞診1例、気管支鏡細胞診14例、喀痰5例、パラフィン切片35例,心嚢水3例)を検索した。EGFR遺伝子変異を有したものは10例(67%、1部位変異8例、2部位変異2例),細胞診で良性と判断された3例のうち3例で変異を認め1例は後に腺癌が確定した。 [考察]Gefitinibによる副作用死は2.5%にも上り無効と予想される患者への投薬を避けることは重要である。PNA-LNA PCR clamp法はEGFR遺伝子変異を検索するに良好な感度を有し簡便(1時間で判定)であり、非小細胞肺癌の診断や治療に貢献するものと思われる。
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