研究概要 |
ガングリオシド特異的形質膜シアリダーゼ(NEU3)遺伝子過剰発現マウスが著明なインスリン抵抗性を伴う糖尿病を示すことを,我々は見出した.また,NEU3遺伝子欠損マウスは耐糖能正常であり,高脂肪食負荷によりコントロールマウスでは,耐糖能障害,インスリン抵抗性,膵β細胞の過形成が誘導されるのに対して,高脂肪食負荷に抵抗性を示した.我々はNEU3とガングリオシド異常,インスリン抵抗性,さらに2型糖尿病発症との関連性を明らかにしてきた. 平成17年度は,NEU3アデノウイルスベクターを用いて、それぞれ通常食と高脂肪食を与えたC57B/6NマウスとKKAyマウスの肝臓にNEU3を過剰発現させて,In vivoにおけるインスリン感受性と耐糖能へのNEU3の関与を検討した。NEU3を肝臓に過剰発現させると,通常食C57B/6Nマウスの体重増加は対照マウスに比べて有意に少なく,また随時血糖値も2週間有意に低値であった。通常食の肝NEU3過剰発現マウスでは対照マウスに比べて,インスリン感受性と耐糖能は有意に改善した。高脂肪食負荷マウスでも,肝NEU3過剰発現により随時血糖値も2週間有意に低値であった。また,肝NEU3過剰発現は高脂肪食負荷C57B/6NマウスとKKAyマウスの耐糖能も有意に改善させた。NEU過剰発現により,肝臓グリコーゲンと中性脂肪の蓄積が誘導され,かつ肝でのPPARγ発現も増加した。肝NEU3過剰発現マウスの肝ガングリオシド組成変化の分析では,GM1の増加とGM3の減少を示した。肝NEU3過剰発現マウスの肝では,IRS1のチロシンリン酸化は,インスリン刺激前後とも,対照マウスに比べて,有意に増強していた。しかし,通常食,高脂肪食負荷とも肝NEU3過剰発現マウスの肝臓インスリン受容体(IR)とIRS2のチロシンリン酸化はインスリン刺激前,刺激後で,対照マウスと比べて有意の差異を認めなかった。高脂肪食負荷の肝NEU3過剰発現マウス脂肪組織のインスリン刺激IRチロシンリン酸化は,対照マウスと比べて有意に増加していた。肝NEU3過剰発現により,通常食C57B/6Nマウスのインスリン感受性と耐糖能改善,高脂肪食C57B/6NマウスとKKAyマウスにおける耐糖能改善を認めた。肝NEU3過剰発現によるインスリン感受性と耐糖能改善の分子機序として,1)ガングリオシドGM3の減少,2)PPARγシグナルの亢進という2つの機序が示唆された。
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