研究概要 |
一度決定された細胞形質が細胞分裂後も娘細胞に維持される「細胞記憶」を幹細胞に当てはめて考えると、「細胞記憶」の維持が幹細胞の自己複製であり、その破綻が細胞分化といえる。ポリコーム群蛋白はクロマチン修飾因子であり、「細胞記憶」のシステムの一つとして特定遺伝子の発現抑制状態を維持する。ポリコーム複合体は大きく2つに分けられ、ポリコーム複合体1(PRC1)はBmi-1,Mel-18,Ring-1A,-1B, Mph-1,M33,Scmh-1などから形成される。このうちRing1BがヒストンH2Aのユビキチンリガーゼであることが明らかにされ、PRC1によるクロマチン修飾の概要が明らかになりつつある。このような中、申請者らはBmi-1が造血幹細胞の自己複製の維持に必須であること、さらには、Bmi-1を造血幹細胞に強制発現することにより造血幹細胞を増幅しうることを明らかにした。Bmi-1はp16^<Ink4a>とp19^<ARF>遺伝子を負に制御することが知られており、Bmi-1欠損マウスにおいてはこれらの遺伝子発現が著明に充進している。これらの遺伝子は細胞周期やアポトーシスに関与するのみならず、細胞の老化に関わることが知られている。申請者らはBmi-1、p16^<Ink4a>、p19^<ARF>のトリプルノックアウトマウスを解析することにより、Bmi-1がp16^<Ink4a>とp19^<ARF>遺伝子を負に制御することにより造血幹細胞のテロメア非依存性の老化を抑制的に制御すること、この制御が造血幹細胞の自己複製能の維持に重要であることを示した。
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