研究概要 |
統合失調症のグルタミン酸低下仮説に基づき,VGLUT1/2に機能低下をきたす多型が存在することを作業仮説として,患者・対照研究を実施した.その結果,VGLUT1は,ひとつのLDブロックから構成され,そのハプロタイプ頻度は,健常対照群と統合失調症群で異なる傾向を示した'(P=0.06).また,同一LDブロック内のIVS2+87A>Gが妄想型(男性群)とのみ有意な関連を認めた(P=0.01).一方,VGLUT2は,二つのLDブロックから構成され,各々のハプロタイプ頻度は,健常対照群と統合失調症群で有意な違いはなく,遺伝子頻度の低いIVS2-49G>A(minor allelic frequency, control, 0.01;schizophrenia, 0.05)でのみ女性群と有意な関連が認められた(P=0.02).また,VGLUT2多型とも多重比較を考慮した補正を行った場合には,統合失調症に関する有意はいずれも消失した.以上の結果から,VGLUT1/2多型が,統合失調症の発症脆弱性に大きく影響する可能性は低いと考えられるが,性差・亜型の違いがを考慮する必要性が示唆された.GFAPに機能低下をきたすような遺伝子多型が存在し,ニューロン・グリア回路網の形成に障害をもたらすことで,統合失調症の病態を形成する可能性があるのではないかと考え,患者・対照研究を実施した.その結果,GFAPの同一LDブロック内に位置する3箇所の多型が有意な関連を示し,そのハプロタイプ頻度は,健常対照群と統合失調症群で有意に異なっていた(P=0.0003).統合失調症群に主要なリスクハプロタイプは,オッズ比1.52であった.以上の結果から,GFAP多型は,統合失調症の脆弱性に大きく影響する可能性が高いと考えられた.また,統合失調症の生物学的機序として,ニューロン・グリア回路網の障害が強く示唆された.昨年度,RELN遺伝子の全領域を網羅する多型を用いて患者・対照研究を実施した結果,イントロン領域に位置する4箇所の多型が統合失調症と有意に関連することをはじめて同定し,IVS5-3C-IVS7+76C-IVS7+186_189AATTdel-IVS17+94Aから構成されるハプロタイプが統合失調症脆弱性に関与することを明らかにした.本年度は、スプライシングへの影響をRT-PCR法により検討した結果,エクソン9が欠失した転写産物をはじめて同定した.さらに,Real-time PCRにより,エクソン9が欠失したmRNA発現レベルを定量したところ,健常対照群と比較して,統合失調症群では2.62倍と増加傾向を示したが(P=0.087),エクソン9が欠失したmRNA発現レベルと遺伝子多型との関連は否定的であった,しかしながら,エクソン9の選択的スプライシングの結果,フレームシフトによる302アミノ酸からなるTruncated formが産生されることが予測された.そこで,統合失調症死後脳から得たタンパク質画分について,タンパク質発現をWestern blotting法により検討した結果,Truncated formと推定されるシグナルを確認している
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