研究概要 |
齲蝕と歯周病は歯の喪失原因となる2大疾患であり,これら疾患の主因は歯面に付着,停滞するプラークであることは明らかである.物質の表面自由エネルギーが低いとプラークが付着,あるいは停滞できなくなると考えられている.したがって,歯および修復や補綴装置の表面自由エネルギーを十分低下させることができれば,齲蝕と歯周病を減少,ひいては無くすことが理論的には可能になる. 本研究では水溶性で歯面に対して親和性の高い界面活性剤であるリン酸エステル塩型フッ素系ハイブリッド界面活性剤のsodium1-[(4heptadecafluorooctyl)phenyl]-1-hexyl-phenyl phosphate(F8HsPPhNa), sodium1-[(4heptadecafluorooctyl)phenyl]-1-butyl-phenyl-phosphate(F8H3PPhNa),および水溶性ハイブリッド型界面活性剤の1H,1H,2H,2H-perfluorohexylphenyl phosphoric acid(F4),1H,1H,2H,2H-perfluorooctylphenyl-phosphoric acid(F6),および1H,1H,2H,2H-perfluorodecylhenyl phosphoric acid(F8)の合成法を開発して焼結ハイドロキシアパタイトに適応したところ,極めて低濃度で高い改質効果が得られることが判明した.エナメル質に対しては焼結ハイドロキシアパタイト表面ほど著明な改質効果を示さないものの,対照の未改質エナメル質と比較して21〜90日間の長期に亙り有意な改質効果を維持すると共に,良好な耐酸性を付与することができたが,焼結アパタイトには匹敵しなかった.この原因としてエナメル質表面のスミアー,汚れ,有機質などが考えられたため,37%正リン酸水溶液,次亜塩素酸ナトリウムで前処理後,FH5の処理効果を向上させるべく検討したが,何れも十分ではなかった. そこで改質方法を変更し,シラン処理が効果的に行えるシリカ薄膜をエナメル質表面に生成してシラン処理によるプラーク付着抑制の検討を加えることとした.シリカ薄膜を低温で生成する方法は未だ開発されていないが,ポリシラザン(PHPS)にCO_2レーザーを照射することによりエナメル質面に約0.9μmのシリカ薄膜を生成させることに成功した. 本研究プロジェクトは研究期間内では所期の目的を十分には達成することができなかった.しかしながら,シリカ薄膜をエナメル質表面に生成する方法を開発することができ,歯表面の確実な改質に繋ぐ成果は得ることができた.
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