研究概要 |
本研究の目的は,1992年中国淅江省龍游市郊外において発見された24の水没した地下石窟のうち,排水された5つの石窟における岩盤の劣化・風化状態を保存科学および地盤工学的見地から解明することである.内容は次の5項目である. 1.地盤調査 踏査による観察に加えて,地形測量および比抵抗電気探査から空洞の周辺の地質構造を明らかにした.あわせて,断層やき裂についても精査を実施した. 2.空洞測量 従来の光波測距儀を前提とする測量では,莫大な時間と人力を要するため,最新技術である3次元レーザースキャナーを適用し,1週間にて,4つの洞窟の精密測量を行い,地層と空洞との相互の位置関係を2mmの精度で明瞭にした. 3.岩石物性と構造特性 粒度分析,浸水崩壊度,鉱物組成,示差熱分析,比表面測定,間隙径などに加えて,塩類風化および生物的風化について考察を行い,岩石中の膨潤性粘土鉱物の膨潤圧と溶解度に着目し,地下水のpHの変化から風化度を同定する新しい方法を提案した. 4.洞窟内環境モニターリング 温度,湿度,照度,気圧の長期測定および電気探査を実施し,データベースを構築した.これにより,人工池の拡大が地下空洞にきわめて悪い影響を与えていると判断し,地上の整備計画を修正させた. 5.水底粘土分析 不撹乱試料の採取により堆積年代を分析し,これにより建造時期を特定することを試みたが泥質試料の日本への輸送が認められず,現地においても十分な分析が困難であることが判明し,時代考証には踏み込めなかった.極めて残念である. 全般に,巨大な地下空洞群に対し,かなり緻密な調査を展開することが出来,岩石の劣化・風化の定量化と地下水pHによる判定方法,さらに弾性波・電気探査といった非破壊検査に加えて,シュミットハンマーやエコーチップによる局所的風化度の判定に対し,新しい知見を得た.石造遺跡調査に対する新しい,そして総合的な方法を確立した.保存対策に有意義な成果を得たと考える.
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