研究概要 |
事例対象地としたインドネシア西ジャワのチタルム川上流域における土地利用変化を,高解像度衛星QuickBirdと空中写真を基に把握した結果,火山体上部や火山山麓外縁の第三紀丘陵地域では,樹林地が多く残るものの,火山山麓での樹林地減少が著しく,農林業システムの変容が明らかとなった。その農業開発の要因について,水文地形学的観点から評価を行った。火山体上部に残存する森林地帯周辺の集落において,森林資源の利用状況を把握したところ,違法耕作の進展が著しく,その影響は,森林資源に依存するその他の農民との資源競合が起こっており,社会・生態システムの崩壊が明らかとなった。これは,新しく導入された小規模酪農システムでも同様であることがわかった。一方森林資源へのアクセスが困難な火山山麓地においては,市場経済の進展に伴い,伝統的なアグロフォレストリーシステムの変容・消失が顕著で,その変化は社会文化的側面にも影響していることが示された。持続的農林業生態系の崩壊過程を理解していく中で,タケ類や大本類の多層構造からなる伝統的なアグロフォレストリーシステムの一種であるタルンが果たす役割が大きいことがわかったため,タルンの持つ生態系サービスについて,社会文化的機能,生物多様性維持機能,土水保全機能,物質循環維持機能,生物資源生産機能の観点から,詳細把握を行った。その結果,集約的利用を目的としたタルンの変容が確認され,著しい集約化は,本来のタルンが持つ生態系サービスの減少をもたらすことが明らかとなった。ただし,換金性の高い果樹や建材種から構成されるミックスタルンは,ある程度の経済性を維持しており,生態系サービスも高い水準にあることが示され,持続可能なタルンの形態として,重要であることが示された。こうしたミックスタルンの普及が可能か農民への意識調査を行ったところ,多くの農民が採用したい意志を示した。しかし,実際の採用には初期投資を問題視している意見も多く,質の良い品種の提供など,農業構造転換支援の制度的枠組みもあわせて必要であることが示された。
|