研究概要 |
本研究課題では「空間」「時間」「感情」「音象徴」の4項目に注目してそれらの言語表現に見られる認知的・身体的基盤について研究を行った。 1.空間 (1)主体の前方移動が反射投射から平行投射への空間参照枠シフトを誘発することを実験により示した。 (2)これまで報告がされていなかった「対象物整列型投射」の現象が日本語話者の空間認知において存在することを示し,さらにこれが対象物のもつ特殊な条件(移動したり人間が乗ることを想定させる物体)によらず生じうることを実験的に示した。 (3)「マエ」「ウシロ」「テマエ」「サキ」「ムコウ」などの日本語の空間語彙が,参照枠の指定を基本的語彙意味設定として持っている可能性を示し,また参照枠では脱明しきれない要因も意味的に含んでいる可能性を論じた。 2.時間 (1)空間語彙の時間領域への拡張について,時間メタファーの分析を通して空間領域における語の用法との関連を論じ,また主体の視点の影響を論じた。 (2)空間語彙の拡張としての時間の接続詞の用法を分析し,イメージ・スキーマの重要性を論じた。 3.感情 身体を基盤とする感情メタファーについて,特に消化器系の臓器やその周辺の現象がもととなっている表現を日英語で比較し,共通点と相違点を分析した。これにより,メタファーの身体的動機づけには普遍的側面と個別的側面がある可能性について論じた。 4.音象徴 オノマトペ以外の音象徴現象を実験的に検証し,音韻素性のいくつかが特定の意味とむすびつくことを示した。またこれらが言語の身体性の一側面をなすと考えられることを論じた。 以上の研究項目はいずれも,自然言語のもつ隠喩的性質になんらかのかたちで関連するものであり,これらが人間の身体的経験によって動機づけられている点で共通項をもつ。
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