研究概要 |
1.グリア系細胞におけるLIS1の発現 免疫染色を用いてグリア系細胞におけるLIS1の発現を調べた。ラット脳では従来報告のあった神経細胞に加え,アストロサイトの系譜におけるLIS1の発現が確認された。また,ヒトグリオーマにおいても様々な組織型や悪性度の腫瘍で,特に分裂中の細胞や脳実質に浸潤している細胞にLIS1の発現がみられた。この発現パターンはdyneinやdynactin,NudE/NUDEL,NudCといった微小管モーター蛋白とその関連分子の局在に一致した。LIS1がグリア細胞にも発現し,細胞移動や有糸分裂に関与する可能性が示唆された。 2.顕性不活性LIS1強制発現による細胞形質変化 顕性不活性LIS1を発現するプラスミドをグリオーマ細胞C6に感染させ,薬剤耐性を用いて形質転換株をクローニングした(C6-LIS1N株)。C6-LIS1N細胞は親株の細胞に比べ細胞極性が失われ,移動能が著しく損なわれた。しかしながら分裂能は保たれており,細胞移動と有糸分裂におけるLIS1の機能に違いがあることが示唆された。 3.顕性不活性LIS1レトロウィルスベクターの作成 顕性不活性LIS1レトロウィルスベクターを作成した。出生後早期ラット脳室下帯に接種することによりグリア前駆細胞に多極性の細胞が増加し、細胞突起の形成とその移動能に変化を来した。意外にも細胞分裂は促進され、ここでも細胞移動と有糸分裂におけるLIS1の微小管への関与に違いがあることが示唆された。以上よりLIS1がニューロンのみならずグリア系細胞にも発現することが証明され、細胞移動と有糸分裂において微小管関連蛋白として独立に機能している可能性が示唆された。これらの所見は滑脳症の組織形成の理解の基盤を与えるものと考える。
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