研究概要 |
1.研究目的 ひと胎児が高濃度のメチル水銀に曝露された場合、死産あるいは究めて重篤な脳神経障害をきたすことは、本邦あるいはイラクにおける胎児性メチル水銀中毒症の発症事実からも明らかである。これまで我々は、メチル水銀が脳の発生・発達過程に及ぼす影響を明らかにする目的から、ラット胎児および新生児に高濃度のメチル水銀を投与することを試み、それぞれ神経芽細胞の移動障害さらにはグリア芽細胞の移動障害が惹起されることを明らかにしてきた。そこで、こうした病理組織学的知見を基盤に、メチル水銀による未分化細胞(神経芽細胞・グリア芽細胞)の移動障害をもたらす分子病態メカニズムを知る目的で分子病理学的研究を行った。 2.研究方法と結果 神経芽細胞の移動期にあるラット胎児、更にはグリア芽細胞の移動期にある同新生児にメチル水銀を投与し、それぞれの終脳外套背側部を対象に、遺伝子発現プロファイリングを行った。本法は、メチル水銀投与によって変動したmRNAプール全体を網羅的に把握するものであり、仕様が大きく異なる2種類のDNAチップ((1)Affymetrix Gene Chip:オリゴヌクレオチド搭載、約7,000の既知遺伝子を含め、計約26,200個の遺伝子プローブセット対象。(2)Laser Techno Gene Chip: Stanford方式の長いcDNA搭載[平均1kb]、約5,000遺伝子対象)を用いた解析を行った。得られた膨大なデータを対象に、Bioinfomaticsを展開し、病態と密接な関連性を有する遺伝子(候補分子)11分子を選定した。有意な発現低下が認められる細胞骨格関連分子、中でも微小管とその修飾分子群(internexin-α,dynein,syndecan2,tau,neurabinl,gephyrinなど)が病態形成に深く関与しているものと考えられた。
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