研究概要 |
仙髄より下位の脊髄には単純系から複雑系へ移行するという特徴がある。本研究では,これを最も単純な末端部から順に上位髄節へと解析を進め,脊髄灰白質の基本的な神経回路構築を明らかにするという目的で,免疫組織化学,神経切断実験,順行性・逆行性トレーサ実験等を組み合わせ,光学および電子顕微鏡による解析を行った。 1.仙髄および脊髄円錐部の細胞構築と線維連絡 ラットの脊髄円錐は仙髄(S1-S4)下部とそれに続く尾髄(Co1-Co3)で構成されている。尾髄Co3より下位では,前根・後根が無いうえに前角の運動神経細胞も存在せず,小型神経細胞が中心管周囲に少数存在し,その多くは一酸化窒素合成酵素(NOS)陽性細胞であることが明らかになった。神経線維はCGRP,SP,ENK,NPY陽性線維が他のレベルの脊髄背側部で見られるような分布パターンを示し,5-HT,TH陽性線維が灰白質全体に分布しているが,L6脊髄の切断ならびにL5以下の後根切断実験により,これらの神経線維は,感覚性のCGRP陽性線維を除いて,仙髄より下位に存在する脊髄内在性神経由来であることが明らかになった。トレーサ実験では,仙髄下部と脊髄円錐末端部で相互の線維連絡があり,それにNOS陽性神経が関与していることが明らかになった。脊髄円錐末端部の小型神経細胞は陥入した核を有し,その一部はNADPH-diaphorase(NOS神経マーカー)陽性で,ENK,SP,5-HT陽性神経終末と接しており,主に樹状突起近位部にENK,SP陽性シナプス入力が認められた。 2.終糸の構造と細胞構築 ラットの終糸は脊髄円錐の末端部から第4尾椎まで,全長約6.5cmにおよぶ。従来,終糸の尾側部は索状の結合組織になると一般的に考えられていたが,最末端まで中心管を形成する上衣細胞層とごく僅かな神経要素で構成されていることが明らかになった。また,終糸尾側部では,中心管の内腔が急に膨んで嚢胞状となり,憩室状の突出や上衣細胞層の不連続部位の出現など特異的な構造が認められた。以上の結果は,脊髄円錐から終糸末端に至るまで,脊髄の基本的構造が連続して存在することを明らかにしたもので,終糸の特異的な構造の更なる解析は,脊髄の構築を発生学的に考察する上でも重要と考える。
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