研究概要 |
Aralarは,脳や骨格筋に特異的に発現するミトコンドリア内膜局在のCa依存性アスパラギン酸・グルタミン酸輸送体で,この生理的役割は,1)ミトコンドリアから細胞質へのアスパラギン酸の供給,2)Malate aspartate shuttleの一員として細胞質NADH還元当量のミトコンドリアへの輸送をおこなうこと,などである. Gene-trap methodによるaralarノックアウト(aralar-KO)マウスにおいては,発育障害や全身性振戦,運動機能障害などがおこり,硬直性の痙攣を引き起こし生後20日目ぐらいに死亡する. 生後18日目から20日目のaralar-KOと野生型の脳について髄鞘染色を施し,比較検討すると,aralar-KOマウスでは,大脳皮質や脳梁,内包,視床などで強い髄鞘形成不全が認められた.しかしながら,細胞構築については,野生型とノックアウトとの間においては,ノックアウトで大脳新皮質が薄いことや側脳室が拡張することなど以外においては,顕著な有意差を観察することはできなかった.免疫組織化学的に野生型とノックアウトの脳のbasic myelin protein(MBP)を調べ,比較すると,まったく髄鞘染色の結果と同じく,大脳皮質や脳梁,内包,視床などで野生型に比べてノックアウトでMBP様免疫反応陽性の神経線維が減少していた.髄鞘形成不全の要因のひとっには,myelin lipidの前駆物質であるN-acetylaspartateやaspartateの産生量がaralar-KOマウスで減少するためと考えられる. さらに,免疫組織化学法によって各種の神経活性物質の動態をノックアウトと野生型の脳についておこない,比較検討した.その結果,野生型と比較してaralar-KOマウスでは,海馬や歯状回におけるグルタメイト受容体様免疫反応が増加,オレキシン作動性神経細胞でc-Fosタンパク質を発現している割合が増加,脳幹におけるセロトニン作動性神経細胞体の数の減少,などが観察された。
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