最近のアルツハイマー病研究から、細胞内コレステロールレベルがβアミロイド(Aβ)の産生をコントロールする重要な因子であることが明らかにされてきた。アミロイド前駆蛋白質(APP)、Aβを含むその代謝産物、アミロイド産生系の蛋白質分解酵素(β-及びγ-セクレターゼ)がコレステロールを主要構成成分とする膜ラフトに集積していることから、その膜ドメインがAβ産生及びその制御にとって重要な場であると考えられている。また、APP代謝と細胞内輸送との関連が示唆されているが、神経細胞内輸送に関連したAPPの代謝調節における膜ラフトの関与及びその機序は明らかにされていない。 我々は、神経細胞におけるAPPの代謝と膜ラフトとの関連を明らかにするために、マウス脳組織・初代培養神経細胞を出発材料としAPPを効率よくラフト画分に回収する膜ラフト調製法を確立した。さらに、膜ラフトにおいてAPPと相互作用しAPPの膜ラフト局在、セクレターゼとの相互作用を制御しうる蛋白質を探索するために、抗APP抗体を用いてAPPを含む膜ラフトの単離を試みた。その膜ラフト中の蛋白質解析により、APPを含む膜ラフトには神経細胞内の輸送に関連したいくつかの蛋白質群が存在することが示された。トランスゴルジネットワーク/エンドソーム局在蛋白質がγ-セクレターゼを含む膜ラフトにも共通して存在することから、そのオルガネラ中の膜ラフトがコレステロール依存性のAβ産生調節に関与している可能性が示唆された。細胞内輸送と関連した膜ラフトにおけるAPP代謝制御の分子機構の詳細の解明は今後の課題である。
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