研究概要 |
本研究は、ポリ(L-乳酸)、すなわちポリ(Lラクチド)(PLLA)の加水分解に伴って生じる残存結晶領域の形成およびその種々の条件における長期的な加水分解挙動と機構を明らかにすることを目的として行った。そのため、PLLAを160℃で結晶化し、97℃で40時間加速加水分解を行うことにより、残存結晶領域を作製し、そのpH7.4かつ37,50,70,および97℃の条件(最長512日間)、37℃かつpH-0.9,0.2,7.4,11.7,12.8の条件、およびプロテナーゼK(pH8.6かつ37℃)の存在する条件下において、加水分解を行った。また、共重合成分が約20wt%の非晶化したポリ(L-ラクチドーグリコリド)[P(LLA-GA)]、ポリ(L-ラクチド-ε-カプロラクトン)[P(LLA-CL)]、およびポリ(L-ラクチドーD-ラクチド)[P(LLA-DLA)]を用いて、それらのpH7.4かつ37℃の条件下における加水分解の際の残存結晶領域の生成と分解を検討した。加水分解後の試料を、示差走査熱量分析(DSC)およびゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用いて評価した。その結果、以下のことが明らかとなった。(1)残存結晶領域は、すべての条件において、分子量に依存せず、時間とともに直線的に減少すること。(2)残存結晶領域の加水分解の活性化エネルギーは、75.2kJ lmol^<-1>であり、PLLAのメルト状態における値50.9kJ mol^<-1>よりも高く、残存結晶領域の加水分解の耐性が高いこと。(3)PLLAの残存結晶領域は、酸およびアルカリにより加水分解が促進されるが、プロテナーゼKによっては促進されない。このことは、プロテナーゼKが結晶領域付近のPLLA分子鎖に対して酵素活性を持たないことを示している。(4)pH7.4および37℃での加水分解において、P(LLA-GA)とP(LLA-CL)では、24週間以内に残存結晶領域が生成し、急速に分解したが、PLLAおよびP(LLA-DLA)では、50週間経過しても、残存結晶領域の形成が認められないこと。
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