研究概要 |
本研究では,機械と半導体で構築する体内埋込型補助人工心臓システムに,生物がもつ増殖,進化,自己診断と自己修復の機能を組み込む手法に関する基礎的研究を目的としている. 最初に研究対象とするモータ駆動型補助人工心臓を開発した.大きさは285mlに対し重さ360gと拍動型補助人工心臓としては世界最軽量である. モータ駆動補助人工心臓のように機械的に構築しているものに対し,体内に埋め込んだ状態のまま増殖,進化を実現するのは不可能であるが,書き換え可能な半導体素子で駆動制御システムを構築することで,増殖・進化に対応させる試みを行った,そこで駆動制御システムを機能単位に独立に動作するオブジェクトの集合体として構築した.経皮的情報伝送システムで体外から機能させる要素の変更や書き換え,またパラメータの変更を可能とすることで増殖,進化に対応させた.また補助人工心臓の制御に,人工心臓専門エンジニアや専門医師の経験と感性を患者ごとの人工心臓制御に反映させるため,人工心臓制御部に追値制御とファジー制御を採用した. In vitro実験により評価したところ,モータ駆動補助人工心臓は,動脈圧100mmHgに対し最大拍出量5.1L/分,最大効率11%という結果を得た.今後さらに機械的改良を行うことで,さらに優れたポンプ特性を得られるものと考えている. 人工心臓システムの自己診断に関する研究では,人工心臓発生音を時間周波数解析し,その結果をニューラルネットワークに入力することで人工心臓の異常を早期に判別するシステムを構築した.長期動物実験が可能な波動型補助人工心臓を用い長期動物実験で評価したところ,ポンプダイアフラムの破断でポンプ停止する24時間前にニューラルネットワークは発生音の変化を感知することができた,24時間の時間的猶予があればポンプ交換は十分に可能であり,本研究は人工心臓装着患者の安全確保に極めて重要な成果を得たものと考える.
|