研究概要 |
背景:胎児の心機能評価のための指標は、いまだ確立していないが、近年、組織ドプラ法を用いた心機能評価法が注目されている。今回我々は組織ドプラ法を用い、正常胎児において左室心筋運動速度(収縮期S波)を測定し、心収縮力(EF)との相関の有無について検討した。 方法:対象は在胎週数17週から35週の正常胎児20例を用いた。心臓超音波断層診断装置はALOKA社製SSD-6500を使用し,3.5-5.0MHz探触子にて、経母体腹壁より胎児の心臓4腔断面を描出した。 組織ドップラーを用い、4腔断面全体をカバーするようにScan Areaを設定し、Raw Dataとして3秒間のシネループをHard Disk上に記録した。その後、LAN経由で専用コンピューターにデータを転送しcustomized software(e-DMS4.1.8)を用い、off-lineにて測定を行った。僧帽弁弁輪部の心室中隔と左室側壁の2カ所にサンプルボリュームをおき、各々組織ドプラ法を用いて左室壁収縮運動速度(S波)を測定し、連続3心拍の平均を求めた。シネループより得られた拡張末期および収縮期における画像より左室心内膜面をトレースし、area-length法を用いて得られた心室内容積より左室駆出率LVEFを計算した。以上より得られたLVEFを胎児左室収縮能の指標とし、組織ドップラーで得られたS波との相関関係を検討した。 結果:心室中隔、左室側壁のS波平均値は各々2.39±0.36m/s(1.62-2.82)、2.76±0.6m/s(1.49-3.57)であった。EFは平均0.68±0.08(0.52-0.81)であった。KVEFとS波の心筋運動速度は心室中隔、側壁の両者で正の相関を示し、統計学的に有意であった。(心室中隔r=0.82,p=0.0002側壁r=0.68,p=0.005) 結語:組織ドプラ法を用いたS波の測定は、正常胎児においても、左室収縮能を反映する指標として有用である可能性が示唆された。 今後の展望:症例数の蓄積と異常胎児の早期診断の可能性について検討を加え、さらに右重機能に関しても検討していく予定である。
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