研究概要 |
視覚対象が10度右側にシフトして見えるプリズム眼鏡を,Rossettiら(1998)に準拠して作成し,半側空間無視に対するプリズム順応の効果を検討した.順応を成立するための動作は,健側の右上肢が届く位置の視標に向けての到達運動である.Rossettiらの原法は身体正面から左または右10度にある視標をランダムな順序で指さす.平成16年度の検討では,欧米の研究成果と同等の半側空間無視改善効果が得られなかったため,視標の位置と到達運動の回数を増やした順応方法も検討した.しかし,半側空間無視が重いと左側の視標を発見できない場合もあり,症例に適した順応方法を選択することが重要と考えられた. 平成19年度までにプリズム順応を実施できた半側空間無視患者は14例であった.無視の改善がみられたのは5例であり,著効といえるBIT通常検査成績83点→127点(最高146点)が持続した1例を除き,改善程度もわずかにとどまった.プリズム順応の半側空間無視に対する効果は症例により大きく異なり,また,探索的課題と線分二等分のどちらが改善しやすいという一定の傾向もなかった。病巣については,後頭葉病巣では効果が少ないという報告もあるが,我々の検討で改善をみた1例の病巣は後頭葉にあった.他の改善例の病巣は,頭頂葉1例,側頭頭頂葉2例,被士出血1例と一定しない.本研究では,プリズム順応が有効な半側空間無視例の特徴を明らかにすることはできず,また,改善効果も限定されることが示された.しかし,重症度に応じて方法を工夫し,プリズム順応を成立させることができれば,半側空間無視改善のきっかけとなり得る。プリズム順応は,急性期から慢性期のいずれの時点でも,リハビリテーションの一環に取り入れる価値があると考えられた。
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