研究概要 |
研究の目的は,暑熱及び寒冷下での脊髄損傷競技者に対する運動ストレスが体温調節反応,発汗量,浸透圧,ホルモン及び免疫に及ぼす影響を明らかにする研究である.被験者は,脊髄損傷者で車椅子マラソン競技者5名(MG),車椅子バスケット競技者5名(BG),そして健康な大学生男子10名(UG)である.測定時期は,人工気候室において2004年及び2005年が夏季(7〜9月)と冬季(1〜3月),2006年が夏季である.測定条件は,次の3条件下で実施した.A.2004年が夏季と冬季に設定温度28℃の条件下(中性温域),B.2005年が夏季に設定温度12℃(寒冷暴露)と冬季に設定温度35℃(暑熱暴露)の条件下,C.2006年が夏季に設定温度28℃の条件下で上半身に着用した温度コントロールスーツ内に15℃の冷水及び42℃の温水を循環させる条件下でそれぞれ実施した.運動負荷は,各条件下においてarm crankingエルゴメータを用い60%Vo2maxで60分間実施した.測定項目は,心拍数,発刊量,鼓膜温,平均皮膚温,浸透圧,カテコールアミン,好中球の活性酸素産生能である. A.夏季運動時の発汗量,鼓膜温,平均皮膚温,浸透圧,カテコールアミン,好中球の活性酸素産生能は,MG,BGがUGより高い傾向を示した. B.冬季において暑熱暴露をすると,発汗量,鼓膜温,平均皮膚温,浸透圧,カテコールアミンは,MGとBGがUGより亢進していた. C.温度コントロールスーツ着用での運動中の42℃温水循環では,発汗量,鼓膜温,平均皮膚温,浸透圧,カテコールアミンについては,MG,BGがUGより亢進していた.好中球の活性酸素産生能は,冷温水いずれの条件でもMG,BG,UGに差は認められなかった. 以上の結果は,暑熱環境において体温調節の感受性や熱産生反応がMG,BGがUGより劣る傾向であったことより,脊髄損傷が暑熱下運動時の体温調節に影響を及ぼしている可能性が示唆された.また,好中球の活性酸素産生能が60%Vo2max運動において亢進した.
|