研究概要 |
テニスラケットのグリップ部を強く握った場合と,弱く握った場合の2種類について,テニスマシーンからボールを発射させ,ラケットに衝突させる実験を行った.実験から,ボールとラケットが衝突した際振動が生じるが,そこには2種類の周波数が混ざっており,一つは約130Hzの高い周波数であり,もう一つは10から50Hzの低い周波数であることがわかった.この結果は,衝突時にラケットは,一つは振動体として,もう一つは剛体として振る舞うことを示している.高い周波数の振動はラケット面中心のスィートエリアと思われる点に衝突した場合には減少し,低い周波数成分だけがラケットに残る.この低い周波数成分の振動は手部と前腕部に伝わる.ラケット面の中心を外れた衝突では,グリップの強さを硬く握らず弱く握ると,高い周波数は伝わりにくいが,低い周波数成分だけがグリップ部を通してよく伝わる.米山(2003)とこれまでの研究によると,衝突の後の振動がテニス肘の原因になる可能性があると報告している.今回の実験結果から,高周波の振動だけでなく,低周波の振動もテニス肘の要因の一つとして考慮する必要があると思われる. 衝突時に,ラケットは振動体と剛体の2種類の特性が混ざった振る舞いをするという観点から,ラケットがグリップを介して手部に連結したモデルを作製することにより,グリップの粘弾性特性について考察しようとした.このモデルは,ボールとラケットとの接触時間,ボールの反発係数,振動の減衰特性,振動の周波数とピーク値などの実験データと比較することで,その妥当性が認められた.このモデルをシミュレーションすることにより,グリップ部の握る強さを変えると,粘性係数は1.0から5.5N/m/sに変化し,弾性係数は50から500N/mに変化すると推察された.またグリップの強さを変えると,手関節の粘弾性係数にも影響するものと思われた.
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