研究概要 |
本研究では,継続的な自発走運動が慢性的なストレスにより生じる安静時の血圧上昇に及ぼす影響を検討した。また,運動による高血圧の予防や改善に,視床下部におけるGABAを介した神経活動の抑制や視床下部室傍核の一酸化窒素合成酵素(NOS)の関与が指摘されているので,これらの点についても検討した。実験には,雄の境界型高血圧ラットを用い,尾部電気ショックによる慢性ストレス負荷を9週間加えるストレス負荷(St)群,慢性ストレス負荷と同時に自発走運動を行わせるストレス負荷+運動(St+Ex)群,いずれも行わない対照(Cont)群に分けた。ストレス負荷開始後,毎週ストレス負荷を行わない日の24時間の平均血圧(MBP)を,無線式テレメトリーシステムを用いて測定した。また,GABA受容体拮抗薬の脳室内投与による血圧の変化や室傍核のNOS含有神経細胞数についても検討を試みた。St群のMBPは,慢性ストレス負荷により有意に(p<0.05)上昇したが,St+Ex群,Cont群では,MBPの有意な上昇は認められなかった(St群(n=6):0週明期105±4,暗期110±5,9週明期114±7,暗期119±4mmHg,St+Ex群(n=6):0週明期105±4,暗期112±10,9週明期109±9,暗期116±8mmHg,Cont群(n=5):0週明期98±3,暗期105±3,9週明期103±4,暗期110±5mmHg)。しかし,GABA受容体拮抗薬の脳室内投与による血圧の変化や室傍核のNOS含有神経細胞数には,St群とSt+Ex群の間で明らかな差は見られなかった。したがって,継続的な自発走運動により,慢性ストレス負荷による安静時の血圧の上昇は抑制されることが示唆された。しかし,この抑制効果に対する脳内のGABAを介した神経活動の抑制や室傍核のNOSの関与は明らかではなかった。
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