研究概要 |
[目的]インスリン抵抗性は、高血圧・高脂血症・糖尿病の発症要因の申心であることは周知されている。今日の糖尿病の著しい増加には、日本人の遺伝的要因に加えて食生活の変化の関与力考えられる。近年、耐糖能への糖毒性に加え、高脂肪食による脂肪毒性が動物実験で報告されている。しかし、脂肪の質についての報告はなく、日本人を対象とした研究もない。本研究ではインスリン抵抗性を惹起する因子として脂肪総量と脂肪酸組成の影響を食事管理下で検討した。[対象と方法]対象は平均年齢22.1歳の10名(男:2、女:8)である。エネルギー・たんぱく質は同一とし、脂肪エネルギー比15%(F-15)、S : M : P3:4:3の試験食を5日間負荷し、同一対象者に性周期を同一にして3週間後に脂肪エネルギー比30%(F-30)でS : M : P=3:4:3の試験食を5日間負荷した。さらに3週間後、脂肪エネルギー比30%でS : M : P=6:3:1とした高飽和脂肪酸食(FB-30)を5日間負荷し、夫々食事負荷試験(Meal Tolerance Test)行い、食前0、食後30分、60分、120分の血糖・インスリン・C-ペプチドを測定した。[結果]脂肪総量の影響:F-15とF-30の脂肪量はF-15;29g, F-30:57gとF-30が高く,炭水化物はF-15:271g,F-30:219gとなった。血糖0,30,60,120分値にはF-15とF-30の間に差を認めなかった。しかし、インスリンは0分に差がなく、30分ではF-15がF-30に比し有意に高く,60分,120分には差を認めなかった。この成績から低脂肪食では、炭水化物(複合糖質)が多くなり血糖の上昇は見られるが、血糖の取り込みに必要なインスリンが速やかに分泌され、血糖を取り込み、耐糖能に影響を及ぼさないことが示唆された。しかし、本研究では対象が健常者であり、糖尿病患者の場合には、インスリン作用不足があり、F-15では高血糖を齎すことが考えられる。脂肪酸組成の影響:F-30(S : M : P 3:4:3)とFB-30(S : M : P 6:3:1)における血糖反応は、5日間負荷後の空腹時血糖(0分値)はFB-30がF-34に比し有意に高値を示した。食後30,60分では差は認めなかったがFB-30は血糖取り込みによる経時的な低下傾向が見られず、120分ではFB-30がF-30に比し有意に高値を示した。インスリンはF-30,FB-30に差は認めず、C-ペプチドも同様で、インスリンの作用不足が考えられた。この成績から,飽和脂肪酸によるインスリン作用の抑制の可能性が示唆された。5日間負荷後の空腹時血糖がFB-30で高値を示したのもその結果と考えられた。インスリン抵抗性の食事因子には、高飽和脂肪食の影響が大きいと考えられる。
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