研究概要 |
脂質の過酸化反応は,酸化ラジカルによる脳のダメージの原因となる主たる過程であると基本的にみなされてきている。したがって、老化に関連した劣化原因であるとも考えられてきている。脳は高度に酸素を消費し、しかも、多くの多価不飽和脂肪酸を含んでいるので,そこでは酸化ダメージを受けやすくなる。神経変性に関する病気に伴う脂質の過酸化については多くの報告があるが,脂質過酸化反応の正確なターゲットについては依然不明なままである。 本研究の目的は,神経細胞における脂質過酸化反応の正確なターゲットを明らかにすることである。そこで,ここではPC12細胞へのフォスファチジルコリンヒドロペルオキシド(以下PCOOHという)の有害作用を明らかにした。 細胞生育度は,PCOOHで処理された分化後細胞は明らかに同じ方法で処理された分化前細胞よりも劣っていた。すなわち,PCOOHは,神経内微小管,したがって神経を崩壊させている。ここで,微小管というのは,チューブリンから形成されていることを知っておいてほしい。上記の結果は,分化前細胞よりも分化後細胞のほうがPCOOHに対してはるかに傷つきやすいといっことを示しておりまた,PCOOHはチューブリンー微小管系に攻撃をしかけているのであろうということをも示している。 本研究は,神経変性に関する病気の初期段階で生じたPCOOHが神経細胞に与える影響を明らかにした最初の報告であり,脂質過酸化物のターゲットを示した最初の報告でもある。
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