研究概要 |
本研究の目的は,北海道大学附属図書館が所蔵する,物理学者・堀健夫が残した膨大な手稿類について,(1)世界の科学史研究者の利用に供するべく,整理・調査を行ない目録化すること,ならびに(2)手稿類の分析を通して,1920〜60年代の日本の物理学界の国際的学術交流の実態について,「公的な文書」とは違う視点から明らかにすることである。 目的の(1)については,手稿類のうち最も重要性の高いと思われる,堀がヨーロッパに留学していた当時の『滞欧日記』について,その概要をまとめ,容易に検索することができるよう電子的データベースの形にした。堀健夫が撮影した,あるいは堀健夫が写った写真についても可能な限り電子化を行ない,容易に検索できるようにした。これらについては,インターネットを利用して研究者に広く公開することについても検討を進めている。手稿類のなかで記述内容の不明な点については,国内に存在する関連文書との突き合わせなどを通して,可能な限り解明を進めた。 目的の(2)については,ボーア研究所に留学中の,仁科芳雄をはじめとする日本人物理学者たちの,日本の物理学界の後進性・封建制ゆえの「葛藤」や,戦前期における,帝国大学と植民地の理工科大学との「格差」,学術交流において実験機器メーカー・輸入商社等が果たした役割などについて,時代背景も含めて分析した。
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