研究概要 |
本研究では,地形構成材料に注目して海岸砂丘の形成史や形態特性を調べることを目的とした。主な調査地域は,静岡県の遠州灘砂丘(天竜川河口より東側),新潟県の潟町砂丘,そして鳥取県の鳥取砂丘であった。遠州灘砂丘では天竜川河口から東に離れるに従って,砂丘の規模が大きくなる一方,砂浜海岸の規模(奥行き)は,東方に小さくなっていた。この原因を砂浜堆積物の粒度組成および海岸縦断形の測量調査により明らかにした。つまり砂浜堆積物,特にberm(汀段)堆積物に占める細砂・中砂の割合が,天竜川河口から離れるに従って高くなり,これに対応して海岸砂丘の規模が大きくなる関係が明らかになった。砂浜海岸の縦断形を考え合わせると,後浜空間における「暴浪の作用頻度」と「飛砂による前砂丘の形成速度」との兼ね合いで,あるしきい値を境にして海岸砂丘の規模が拡大する様子が示された。一方,潟町砂丘でも同様に関川河口から北東に離れるに従って,砂丘の規模が大きくなる。関川流域における砂粒の鉱物組成調査より,潟町砂丘骨格の形成は妙高火山の活動と密接に関わり,8〜5万年前に縦列砂丘が急成長した。この地形発達が砂丘規模の変化の原因であった。鳥取砂丘では,砂丘の成立史をボーリング調査(B5とB6)や常時微動探査により研究した。層相解析,珪藻分析・花粉分析・電気伝導度分析を通して,砂丘が形成される以前の古環境変遷を詳細に検討中である。また鳥取砂丘「追後スリバチ」の特異な景観の成り立ちを風洞実験により調べ,その保全を考えた。さらに飛砂や海塩といった自然の摂理を巧みに利用した鳥取砂丘の草原化対策を目指し,sandblastingとseawater sprayingによる植生管理の方法を模索中である。このように地形構成材料や飛砂プロセスに注目すると,海岸砂丘には多様な研究テーマがある。本研究を端緒として,今後も研究の深化を目指したい。
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