研究概要 |
実験1)第二次性徴期からyoung adult期におけるストレスに起因する鬱発症において周産期内分泌撹乱化学物質暴露が影響力をもつ可能性を調べる目的で雌マウスに2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin(TCDD)を経口投与し、正常雄マウスと交配した。胎盤・母乳経由でTCDDを摂取させた産仔を、離乳期以後に長期の隔離飼育を行い隔離ストレスを与え鬱を発症させ、隔離飼育のみで鬱を発症させた対照群(鬱モデルマウス)と比較した。TCDD周産期暴露群の産仔では、隔離飼育による鬱モデルマウスに比較して、脳内ノルアドレナリンがさらに増加し、社会行動障害もより強く現れた。このことは、周産期のTCDD摂取は、第二次性徴期からyoung adult期におけるストレスに対して鬱発症における脆弱性を惹起することを示唆している。 実験2)内分泌撹乱化学物質の周産期暴露により現れる行動異常と鬱による行動異常の共通性を調べる目的で、妊娠中の母マウスにTCDDを経口投与し、産仔の第二次性徴期からyoung adult期に発症する行動異常を調査した。TCDDを胎盤・母乳を介して摂取した産仔の多くに、生後2週目に触覚刺激に対する一次的な過敏性が現れたが、数日後に消失した。生後7週末頃から、軽い接触刺激に対する「払い除け行動」、「回避行動」、「攻撃行動」、「潜隠行動」が出現した。これらの行動を隔離飼育による鬱モデルマウスと比較したところ、ほとんどの行動が酷似することが明らかとなった。以前の研究においてTCDD摂取動物と鬱動物の脳内物質の特徴に類似性が見られることが明らかになっているので、TCDDの周産期暴露により発症する若年期行動異常は鬱症状の一部である可能性が考えられた。
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