研究概要 |
沿岸環境の保全は,我々にとっての責務であり,人間活動によるエストロゲンの沿岸環境へのインパクトの実態把握が必要である。河川水の溶存物質および懸濁物質が海水と混合した時に生じる凝析や凝集の過程において,エストラジオール(E2)の挙動に及ぼす影響について,都市河川と海水の混合実験から検討した。河川水中に含まれるE2は海水混合による溶存・懸濁有機物の凝集および溶存鉄の凝析による影響を受けることなく,希釈混合して拡散していく可能性が高いことが明らかとなった。 一方において,人間が生活していく限り,エストロゲンをし尿とともに排出し続けていくことになるので,下水処理場においてエストロゲンを安定的に除去し,沿岸環境への負荷を削減するためには,エストロゲンの活性汚泥への吸着と分解に関する基礎的情報が必要である。そこで,実際の下水処理場から採取した下水流入水と活性汚泥のバッチ式混合実験を行い,エストラジオール(E2)とエストロン(E1)の活性汚泥への吸着と分解に及ぼす影響について検討した。E2とE1の吸着に関して,活性汚泥を構成する細菌群が極めて重要な機能を備えていることがわかった。流入下水が活性汚泥と効率的に混合され,溶解性のE2とE1が活性汚泥と接触することができれば,E2とE1は極めて効果的に除去できると考えられる。さらに,担体投入型生物処理システムに着目し,樹脂系中空円筒状担体を充填した小規模の実験装置を用いて,高速高度処理した場合におけるエストロゲンのE2とE1の挙動について検討した。窒素除去を目的とした下水の高度処理は良好であるにも関わらず,E2とE1の除去率は低く,それぞれ70%と40%であった。下水処理場における生物反応タンクの滞留時間と効率的な撹搾・混合の維持管理がエストロゲンの低減に極めて重要であることが明らかとなった。
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