研究概要 |
1980年代に日英両国では20代後半と30代の女性の就業率が一旦低下するM字曲線が見られた。20年後の今世紀初頭、英国でM字曲線は解消されたが日本では存続している。英国では10代の高就業率に加え30,40代で子を持つ母親層の就業率が増加し、男女賃金格差が縮小し、上級職・専門職へ女性が進出するなど均等待遇が進展した。少子化の進行も緩慢で合計特殊出生率は日本の1.29に対し1.74である(2004年)。 上記英国事情の背景には以下の事柄が指摘される。1, 脱工業化・第三次産業化による「労働の女性化」の進行。歴史ある金融・保険業、福祉国家の教育・保健、商業等第三次産業が拡大し、農工業は縮小した。第三次産業中、教育・保健の7割弱、金融・商業の5割を女性が占める一方、工業等の男性職は減少した。2, 女性の就職・再就職やキャリア形成を可能とする就職市場の存在。転職が多いため、多くの就職紹介会社や求人広告があり新卒以外の女性にも就職機会が開かれている。育児経験も履歴となる。3, 様々な保育方法の選択が可能。育児・家事の社会化と父等家族の育児・家事参加の進展。4, 差別禁止の法制化とEUの男女平等政策。5, ブレア政権の仕事・家庭の両立支援政策。6, 家庭と両立が可能なデーセントな労働環境。7, 出産・育児を支える安全網、社会保障制度の充実。8, 母イメージ等文化の差。 日本のジェンダー格差の背景には、1, 男女均等待遇実現の遅れ、2, 苛酷な労働環境と役割分業観による家庭・仕事の両立困難、3, 多様性に欠け、量的に不充分な保育サービスと三歳児神話、4, 新卒若年中心で女性の再就職に厳しい正規求人環境、5, パート・派遣等の不均等待遇、6, ジェンダーバイアスをもつ諸手当・税額控」除、があり、7, セーフティネットの不充分さ、8, 男性中心の企業文化、9, 儀式慣習等に残る儒教的男尊女卑文化、の影響も大きい。解決のため背景事情の改善に取り組む必要がある。
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