研究課題
基盤研究(C)
A.コントとJ.S.ミルは、ともに実証科学に基づいた社会哲学の構築をめざしたが、結実した社会哲学は、ジェンダー論的観点から見て極めて対照的なものとなった。コントは男女の性差を本質的と考え、特に後期思想では愛を基礎とする人類教における女性の役割の重要性を唱えた。ミルは男女の特性の差の多くを成育過程の違いに求め、自由を原理とする社会における女性の解放を説いた。ただし対極的な結論に到ったとはいえ、コントとミルは、ともに個入的に関わりのあった女性(クロティルド・ド・ヴォーとハリエット・テイラー)から大きな影響を受けることによって、ジェンダーに関する彼らの思想を形成した。コントと女性達との関係についてはクロティルドとの関係を中心に、Raymundo Teixeira Mendes、Charles de Rouvre、Emile Corra、Maurice Wolf、Mecca M. Varney、Ander Theriveなどによる多くの著書が早くから出版されている。このなかでVameyの著書は、クロティルドに限らず、彼の母や妹や妻それに召使の女性との関係も取り上げて、総括的になっている。ただし男性の視点への偏りという従来の通弊を免れていない。ミルについては、ハイエクの研究以来、彼とハリエットとの関係および彼に彼女が与えた影響について、Michael St. J. Packe、 Ruth Borchard、H.O. Pappe、Josephine Kammなどにより議論が続けられてきた。さらに最近になって、Jo Ellen Jacobsによりハリエットの著作全集ならびに伝記が出版された。Jacobsの著書はハリエットの視点に立つという特徴がある。本報告では、特にVarneyとJacobsの著作を参照しながら、コントならびにミルの思想形成に女性たちが与えた影響について広く検討することを通して、彼らの社会哲学における性別規範の位置づけを再検討するとともに、思想史研究自体がはらむジェンダー・バイアスについても顧慮した。
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