研究概要 |
12世紀後半から13世紀前半にかけての北イタリア建築および彫刻は,いわゆるロンバルディア・ロマネスクがフランスの影響をうけつつ固有のゴシックを展開しようとしていた。しかし,この過渡期の状況についてはいまだ多くのことが詳らかでない。本研究ではこうした状況をふまえ,北イタリア・ゴシック黎明期を代表するモニュメントのひとつであるフィデンツァ大聖堂を中心に,過渡期の北イタリア聖堂彫刻図像に関する総体的な研究を行った。フィデンツァ大聖堂の他,パルマ洗礼堂,ピアチェンツァ大聖堂,モデナ大聖堂,そしてローディ大聖堂を考察の対象とした。その成果として特に以下3点が挙げられる。 (1)聖堂正面中央扉口左右の預言者像について 預言者像およびその周囲の聖母子像によって,聖堂を「神の家」・「聖母の胎内」として称揚していること,シトー会神学との関連なども考慮に入れつつ具体的に検証した。 (2)聖堂正面中央扉左右のアダムとエヴァ像について これらの図像が同時代の聖史劇「アダム劇」と関連するばかりでなく,1215年のラテラノ公会議で「告解の秘蹟」が認められることとも密接なかかわりあることを明らかにした。 (3)聖堂正面の創世記伝図像における労働の場面が,イタリア中世自治都市国家における労働に対する理念と関連することを,当時の具体的政治状況とともに考察した。
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